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AIドクター最前線

IT好きな医師の記録

WELQ問題から考える:人工知能ドクターを賢く利用する人間になる方法。

僕は医者としてブログを始めないといけない理由がある。

『WELQ問題』を医師として対岸から見ているつもりだったが、思った以上に事態は深刻であり、「僕もブログを書いて世の中に情報を発信しなければ」という使命感がわいてきた。テクノロジーが将来もたらすだろう医療革命に患者も含め、一般の人たちが適応できるか、とても心配になった。

(みんなが期待を寄せている人工知能ドクターもWELQとそんなに変わらないのに…) 

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『WELQ問題』とは、WELQという医療情報サイトを運営していたDeNAがライターを格安で大量に雇って医療に関するパクリ記事を濫造し、販売していた(正確には株式市場から得た潤沢な資金でSEO対策を行い、広告収入を得ていた)ことが明るみに出た事件である。薬事法に引っかかることを上場企業が堂々としていたため大きな問題となり、DeNAは多くの批判を浴びた。

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でたらめな医療情報を垂れ流したこの上場企業は許しがたい。許してはいけない。しかしそれ以上に僕が問題視したのは、次なるWELQ事件は粗悪メディアが舞台ではなく、近い将来には人工知能ドクター(AI医師)がやり玉に挙がることを直感したからだ。

 筆者の直感を理解するためにもう少しWELQについて掘り下げよう。

 WELQはキューレーションメディアと呼ばれるプラットフォームの一つであった。キューレーションメディアの大きな役割は、ちらばった情報をコンパクトに要約して、読むユーザーの時間を節約することである。ユーザーの時間を節約することが、Web体験を向上させるものであり、Googleなどの検索エンジンから優良サイトとして評価されていたともいえる。内容の真偽はさておき、『Naverまとめ』なども同じようにGoogleに優良サイトと認定されている。

 間違いなくWELQは欠陥だらけで著作権法薬事法を違反した最低のサイトであった。しかし記事をブラシュアップし、専門家の加筆・修正を行えば、コンパクトに情報が集約された超優良な医療情報サイトとして生まれ変わる予定だった。ただ修正するのが遅かったのだ。軌道を修正する前に問題が勃発してしまった。DeNA経営幹部の危機管理不足がこの失敗を引き起こしたといえる。

木星に向かう宇宙船を打ち上げるために、まずは火星に到達させる必要がある。火星に到達させるためには、当たり前だが地球の大気圏を突破しないといけない。WELQは大気圏を突破する途中で砕け散ったのだ。

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 勘違いしないで欲しいが、筆者はWELQを支持するわけではない。WELQや運営元のDeNAを攻撃しても超優良医療サイトは生まれないことをみんなに理解して欲しいのだ。 

今みんなが期待している人工知能ドクターも、本質はキューレーションメディアと同様の役割を果たすことも知っておいて欲しい。AIは散らばった論文から情報を収集し、医師に情報を提供する。確かに、インターネットの記事より論文は信頼性は高いが、実は中には粗悪に作られた論文や酷い場合はねつ造論文だってある。

医療AIの癖を読み取った性悪研究者が、AIに気に入られる論文を提出することだってあるかもしれない。

情報が正しいか判断するのはいつも優秀な人間だ。

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さて、ここからは大胆な推測にはなるが、WELQ問題と同様の問題が人工知能でも起こると予想される。

具体的には、人工知能を活用した診療が近い将来実現するだろう。有能な医師はAIを上手に使いこなし、無能な医師はAIのいいなりとなり、人命を危機にさらす瞬間が起こると想像される。

そうなった時に、『人工知能は危険だ』『運営元はこの危機を予測できなかったのか』『医師の教育は?』『そもそも医師なんていらないのじゃないか』と攻撃対象を探す人たちの姿を容易に想像できる。批判の対象を探すのは簡単である。

しかし攻撃先を探すのでは無く、人工知能を上手に使えるように自分が進化しなければいけないのだ。

WELQだって、「ネットの情報はこの程度か」と理解するためのツールとしては実に有用だった。コンパクトにまとまっていたのだから。筆者も時々ネットで疾患を検索していたが、「でたらめなことを書いているな」と思いながらも、分かりやすい表現は患者の説明に使ったりする。バカとハサミは使いようである。

道具を使うのは人間であることは原始時代から現代に至るまで変わっていないと思われる。これは人工知能が発達する時代も変わらない。道具を使う知恵をブログを通して、発信していくつもりだ。

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あと付け加えて、現代の医療人工知能のレベルも伝えておきたい。

IBM人工知能ワトソンが、人間医師が診断に苦労した症例の病名を見つけてきたことで、話題になったが、実をいうと今のところ人工知能を使った医療は実に稚拙だ。

東京新聞:膨大な医学論文を学習のAI、名医の働き 診断難しい白血病見抜く

ある程度の病名と確率を羅列することは人工知能にとって容易であるが、実際には「白血病である」と決断し、治療を決定しある時は治療を中止するという総合的な判断が医療者には求められる。今のところAIにはそれが出来ない。

仮の話、白血病のあなたが症状をワトソンに入力し、『キミ ハ ハッケツビョウ カモ シレナイ。95%グライ。ホカニ ハ タダノカゼ カモ。』というアウトプットを得ても何の治療も受けられないということだ。95%は確かにすごい。でもすごいという感想にすぎない。

現時点ではAIは全ての医療行為をとってかわるわけではないのだ。決断、実行のプロセスが医療では必要となる。この決断・実行のプロセスは、将来においても人工知能が不可能な領域なのである。

医療のプロセス全てをAIがしてくれるなら、僕は日常業務から解放されて、毎日ワインでも飲みながら大切な人と映画をみてのんびり過ごす事が出来るので、とても幸せだ。ああ、X-dayが待ち遠しい。

X-dayが来るまで僕が今できるのは、医療という世界を一般の人たちに伝えることだ。さらに言うと一般の人に広めることで、X-dayが早まることも確信している。利口な患者になるためには、来たるべき医療革命に備えて、テクノロジーとの向き合うメンタリティーを学ばなければいけない。僕たち全員はテクノロジーと向き合うために、人間らしさを高めなければいけない。

まずテクノロジーを利用する人間として最も大切な『決断』から話をしよう。次回は、どうすればまともな意志決定を出来るかを考えたい。

稚拙な文章にはなるが、今後も是非おつきあい頂きたい。

千歳Q

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追伸

ハンドルネーム『千歳Q』のQはWELQとは一切関係ない。どちらかといえば、林田球からのパクリである。 千歳は苗字である。『ちとせ』と読む。