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AIドクター最前線

IT好きな医師の記録

正しい決断をするために①「決断モデル」 〜医療の現場と就活の事例〜

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

さて新年早々ですが、決断について。

大辞泉によれば、決断とは「 意志をはっきりと決定すること」である。いろいろな選択肢がある中で、「この選択肢をとる」と意志を固めることを意味する。医療の現場で言えば、「副作用もあるけど、この治療を受けます!」と決めることが決断となる。

今日は正しい決断をする方法をお話する。今、プライベートや業務上で決断を迫られている人に役立てば幸いだ。

決断のための3要素

EBMという言葉を聞いたことがあるだろうか。Evidence Based Medicineの略であり、日本語に訳せば『根拠に基づいた医療』となる。EBMは今でこそ有名になり、多くの医療家が実践しているけれど、数十年前は『経験に基づく医療』が中心であった。

 そのEBMを広めた第一人者であるミュアー・グレイ博士(Dr. Muir Gray)が、提唱する意志決定のモデルはかなり参考になる。

良質な意志決定は、Evidence(根拠)とValues(価値観)とResources(資源)の3要素で決まる

EVRモデルでは、根拠(この治療をすれば、90%の人で治癒が見込める)と資源(この薬を使える)と価値観(薬を飲みたくないという信念をもっている)の総合判断により、医療方針が決まるのだ。

決断はかなりエネルギーがいる作業

まず決断とはかなりエネルギーのいる作業になる。なので、決断出来なくて嘆いている人はクヨクヨせずに悩み続ければ良い。ちなみに筆者の場合、先日ブログの記事にも書いたが、職場に辞表を提出してきた。この決断をするまで、かなり考えぬいた。

個人的な経験では、社会的に成功している人はすべて正しい決断をたくさん行っている。この決断のプロセスが出来ない人は世の中を生きにくいと感じてしまうのだ。後でブラック企業電通』の例を御紹介する。

決断を行ってはいけない時

その前に、決断を行ってはいけない時期というものを知っておく必要がある。心身共に健康でない時は、人生で重大な決断を絶対してはいけない。日本うつ病学会治療ガイドライン(2016)にも明記されている。

「極端なとらえ方」に基づく「療養中の大決断」を避け、重要な事柄(婚姻関係、転退職、財産の処分など)に関する判断は延期するように伝える。

前述のように決断はかなりのエネルギーを要する。弱っているときに決断を行えば、エネルギー不足となり、たいてい誤った判断となる。家を売ったり、離婚したり、結婚したり、仕事を辞めたり、今後の人生に多大な影響を与える決断は、うつ病のときや闘病生活中にしてはいけない。後で後悔するからだ。

逆に、ずるがしこい奴らはあなたがうつ病や弱っているときに、決断を迫ってくるものだ。その時はしんどい時なので、つい言いなりになってしまうのだが、勇気を持って「少し待ってください」と伝えよう。それか信頼できる家族に頼ろう。

ブラック企業の例、『電通』へ就職する場合

ブラック企業を例に、決断のロールプレイしてみよう。ここでは分かりやすくブラック企業の例として『電通』を名指しで挙げさせてもらう(笑)。

就職を決めることとは大切な決断の一つだ。就活競争に勝ち抜いたあなたは見事、超優良企業『電通』への内定が決まった。万歳だ。ところが、過重労働で昨今話題になっている。自殺者まで出ているようだ。世間ではブラック企業と言われている。

問いは、このブラック企業に就職すべきだろうか?

根拠(Evidence)は、企業の将来性だろう。電通は上場企業であり、情報は比較的オープンとなっている。将来この会社がどうなるのか、それにともないどの程度の年収がえられるか。こうした将来に関する確率がEvidenceになる。

資源(Resouces)は、現在における時間、年収、家族だろう。入社時の給料、家族構成、家族の理解はあるか等である。今に関するものがResourcesだ。

最後は、Values(価値観)。自分の思いである。「電通という超有名企業につとめているという名声が欲しい」か「次の転職先や起業の踏み台として就職したい」か「9時5時の生活を送りたいか」こうした、「〜したい」という欲望が価値観となる。感情がValuesになる。

以上を総合して、就職を決定すれば良い。EVRモデルは将来・今・感情を元に決断しろ、といっているに等しい。

EVRモデルの限界とValuesの大切さ

さて、利口な読者は気づいているかもしれない。実はこのEVRモデルにはとてつもなく大きな欠陥がある。でもこの欠陥こそが僕が伝えたい点である。

医療現場での意志決定のために開発されたEVRモデルだが、実世界の決断においてはこのEvidence(根拠)が明らかで無いことが非常に多いという現実だ。時にResources(資源)も定かでは無い事もある。電通の例もそうだ。電通の将来性なんて、誰も分からない。わかるなら、株価の変動なんて存在しない。

世の中は自分にとって分からない事が多すぎる。結局決断に必要な要素が足りない事が多いという問題に行き着く。実社会においては、不完全情報ゲームが多いのだ。不完全情報ゲームの説明については他のブログに説明を譲ろう。

世の中は完全情報ゲームと不完全情報ゲームでできている - 元売れない芸人の独り言

一言でいえば、実世界は医療の世界より複雑なのである。手元に使える情報が少ない。この観点からEVRモデルをもう一度見て欲しい。

Values(価値観)については自分の心の中にあるもであり、ほぼ完全に掌握出来ると言っても過言では無い。「〜したい」は裏切らない唯一の情報だ。

正確な決断をするための第一歩は、自分の価値観と向き合い、完全掌握することから始まる。電通の場合で言えば、「起業の踏み台として、どんなにブラックでもあがいてやる」という強い思いがあれば、予想していなかった事態になっても、働き通せるし、退職後に起業して成功できるのだ。

不確かなものを少しでも確かなものにするために、情報収集をするのももちろん大事だ。しかし、自分という裏切らないものを探すことのほうがよっぽど確実である。

年末年始の休みのあいだ、家族と過ごすのも大切だが、自分の価値観と向き合う時間をもうけてはいかがだろうか。

次回はValuesについて掘り下げたい。

◇参考文献

エビデンスに基づく医療にかんする研究の第一人者、中山先生が書いた名著。EVRモデルについても説明されている。 

京大医学部で教える合理的思考

京大医学部で教える合理的思考

 

 個人の話の場合、Resourcesは問題となることが少ない。自分の時間や家族ぐらいの問題だ。しかし組織では別だ。数多くの人の時間を巻き込むことになる。戦争では命がかかわってくる。戦争を舞台に優れたリーダーの資質を描き出す名著だ。大きな組織を束ねるリーダーの立場の人はこの本を必読である。決断に関する示唆的な情報が多く載っている。とてもこんなすごいリーダーにはなれそうにも無いが…学ぶところは多い。

 医療関係者は一度読んでおくと良い。ミラーグレイもふくめ、よりよい医療に関するフォーラムのレポートだ。英語にはなるが、名論文が多い。

Better Doctors, Better Patients, Better Decisions: Envisioning Health Care 2020 (Struengmann Forum Reports)

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